あるレジ打ちの女性の話 2
『涙の数だけ大きくなれる』木下晴弘著書、フォレスト出版
に収められているお話のつづきです。
すでにお読みになった方もいらっしゃるかも知れませんが、
よろしくお願いします。
彼女は辞表を書きました。
そして今度こそ田舎に帰ろうか、と悩みます。
そんな時、お母さんから電話があり、田舎に帰ろうと決めて、荷物を片付け始めます。
(つづき 以下引用です)
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あれこれ段ボールに詰めていると、机の引き出しの奥から手帳が出てきました。
小さい頃に書き綴った自分の大切な日記でした。
なくなって探していたものでした。
そして日記をパラパラとめくっているうち、
彼女は『私はピアニストになりたい』と書かれているページを発見しました。
そう、彼女の小学校時代の夢です。
『そうだ。あの頃私は、ピアニストになりたくて練習を頑張っていたっけ』と、
彼女はあの時を思い出しました。
彼女は心から夢を追いかけていた自分を思い出し、
日記を見つめたまま、本当に情けなくなりました。
『あんなに希望に燃えていた自分が今はどうだろうか。
なんて情けないんだろう。
そして、また今の仕事から逃げようとしている…』
彼女は静かに日記を閉じ、泣きながらお母さんに電話したのです。
『お母さん、私、もう少しここでがんばるね』
彼女は用意していた辞表を破り、
翌日もあの単調なレジ打ちの仕事をするために、スーパーへ出勤していきました。
ところが『2、3日でもいいから』と頑張っていた彼女に、
ふとある考えが浮かびます。
『私は昔、ピアノの練習中に何度も何度も弾き間違えたけど、
繰り返しているうち、どのキーがどこにあるのか指が覚えていた。
そうなったら鍵盤を見ずに、楽譜を見るだけで弾けるようになった』
彼女は昔を思い出し、心に決めたのです。
『そうだ、私は私流にレジ打ちを極めてみよう』と。
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(つづく)