「一万円選書」とは
昨日のこの欄では、
「自分で本を選ぶこと」について触れました。
今日は「知らない本屋さんに選んでもらう」
逆に言うと「見ず知らずの人のために本を選んであげる」という話です。
会ったこともない人から、「お金を預けるので、私のために一万円分の本を買ってきて」
と頼まれたら、どうしますか。
「自分が今何を読みたいのか」
または「今、自分に必要な本はどれか」
そんなことさえ考えるのは難しいですね。
それなのに、他人の、それも会ったこともない人のために一万円分本を選ぶサービスが
人気があるそうです。
「一万円選書」というそのサービスを始めたのは、
北海道・砂川にある小さな町のいわた書店です。
私はその小さな個人経営の書店のことを、一昨年春の
NHK「プロフェッショナル」で知りました。
いまや全国からの応募者が3000人待ちという人気ぶりだそうです。
その書店のご主人は、どうやって本を選んでいるのでしょうか。
会ったことのない人でも、
「カルテ」と呼ばれるアンケートのようなものを記入して送っていただけると、
それを元に本を選ぶそうです。
世間で話題になっている新刊やベストセラーと呼ばれる売れ筋の本などではなく、
その人に合った本を選ぶには、相当な本に関する知識が必要でしょう。
テレビではたしか、「(自分が)読んだことのない本は選ばない」と言われていたと思います。
そのいわた書店が応募者に書いてもらっている「カルテ」が紹介されていました。
実物は、A4用紙3枚だそうです。
参考・引用 書店が客好みを選ぶ"1万円選書"人気爆発 質問回答を踏まえ1万円分を厳選 PRESIDENT 2019年6月3日号 より
質問を見てみると
「これまでに読まれた本で印象に残っている本ベスト20をお教え下さい」
これは、既読の本や今までの読書傾向を知るために必要な気がします。
しかし、
「これまでの人生で嬉しかったこと苦しかったこと等を書き出してみてください」
難しくなってきます。さらに
「何歳の時の自分が好きですか」
ううむ、考えてしまいます。
「これだけはしないと心に決めている事はありますか」
ちょっと薄っぺらな私の生活ぶりがバレてしまいそうで、何と書こうか悩みます。
実際、前掲のネット記事によると、応募者の方からは次のような反響もあるそうです。
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実は、お客様にはこれがかなりの難行。
「1週間かかった」「10回以上書き直した」という方もいれば、
「これまでの人生で苦しかったことを書き出してみてください」という質問で涙が出て、
作業が進まなくなった方も。
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店長の岩田さんの話です。
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実は、僕が選んだ本を読む以前に、
この「カルテ」に回答するプロセスを通じて自分をさらけ出すことで、
「これはしたくない」「本当はこんなことをしたい」
といった本人にとっての“答え”がほぼ出てきているのです。
僕は「カルテ」を読み込むことで、その人にとっての“答え”を見出し、
それを肯定してくれそうな本を選ぶわけです。
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(店で本を選ぶ岩田さん)
なるほど、そういった視点で本を選んだことはないですね。
これだけでも、AIによる「マイクロターゲティング」とは、ずいぶん違います。
そこまで自分と向き合った末に選んでもらい、届けられる本。
テレビでは、
「自分では一生かかっても選ばないだろうなと思うような本も送られてきました。
しかし、それを読んでみて、本当によかった」
というお客さんのコメントや多くの感謝の手紙もありました。
本を選ぶことをとおして、そこまで自分と向き合う。
そういう経験とはどんなものでしょう。
私も経験してみたいと思います。